子供の脱会を願う家族の皆様へ
一.はじめに
当会は、『会の性格上、特定の教団教派の教義や利害を持ち込むことを禁止する』と、規約第9条・「運営にあたっての留意点」にあるように特定宗教や教派の利害を超えた市民団体です。会員には、統一教会信者ばかりでなく、強制説得によって脱会し統一教会に批判的な元信者の方や、他宗教の方もおられます。私たちは、信条や立場は各々異なりますが「拉致監禁をなくしたい!」という点で一致しています。なお、運営資金は主に会員の会費(年会費6000円)で賄われていて、特定団体からの指導や資金援助は一切受けていません。
以上を踏まえた上で私達のメッセージを最後まで読んで頂ければ幸いです。
皆様が「カルトにマインドコントロールされている子供(妻)を救うためには、“保護説得”して脱会させるしかない」と決意し実行される前に、ちょっと立ち止まって考えて頂きたいのです。
信者家族の皆様にお伝えしたいことは以下の内容です。
二.保護説得は、果たして子供(妻)や家族の幸福をもたらすか?
子供(妻)がカルトと呼ばれる団体に関っていることを知った時、週刊誌やワイドショーでのセンセーショナルかつ、時に偏向した報道を差し引いても、ご家族の心配は無理もないことと思います。
特に、統一教会は過去、複数の信者が特商法違反等で逮捕され刑事罰を受けてきた前歴があります。このようなことが続くようでは、信者のご家族が不安になるのも当然であります。
統一教会は2009年2月と 3 月、当時の徳野英治会長が教会指導者に対する注意と指導として「通達文」を公表しました。
内容は、信徒に対しコンプライアンス(法令順守)を徹底させること等でありますが、今後、統一教会が信徒を 正しく指導し、より社会に開かれた教団へと改善し世間や信者家族に認められるよう最大限の努力を傾けていくことが必要でありましょう。
しかし、そうであったとしても、果たしてカルトと呼ばれている団体から子供(妻)を脱会させるために保護説得をすることは、本当に子供(妻)、そして家族の真の幸福をもたらすのでしょうか?
まず、第一に、もし、保護説得の手法として、本人の意思に反して、マンションやホテルの一室に閉じ込めた場合、これは、「拉致監禁」となります。
拉致監禁を伴う強制説得は刑法(第220条)逮捕・監禁罪に抵触する犯罪であります。また、憲法で保障された基本的人権(第11条)、信教の自由(第20条)を侵す人権侵害であります。国会での答弁においても、2000年4月20日、当時の警察庁長官、田中節夫氏は、「親子や親族であっても、刑罰に触れる行為があれば、何人に対しても法と証拠に照らし厳正に対処する」(注1)と明言しています。
第二に拉致監禁を伴う、本人が同意しない強制説得は、それを受ける子供(妻)の心身、とりわけ精神に大きなダメージを与えます。本来、最も信頼する親兄弟(夫)に謀られてマンション等の監禁部屋に閉じ込められる・・・。その異常な環境下で、心にある自分にとって何よりも尊いものが力ずくで破壊されていく・・・。当会の拉致監禁被害者の一人はその経験を「精神的レイプ」と断言しています【詳しくは、―川嶋英雄の証言―をご覧ください】。
そのショッキングな体験は、被害者の心を深く傷つけます。その結果、拉致監禁を体験した少なからぬ人びとが、不安感や恐怖感、情緒不安定、睡眠障害、悪夢、集中力や意欲の減退、うつ状態などの症状に苦しめられ、中には社会復帰が困難になる人もいます。これは、『心的外傷後ストレス障害(PTSD)』と呼ばれる疾患で、心が傷つくような衝撃的な体験、すなわち、戦争、暴行、テロ、誘拐、人質、監禁、災害、事故、レイプ、幼児虐待、ドメスティック・バイオレンス(DV)などが原因で発症する深刻な後遺症なのです。これは、たとえ脱会に成功したとしても同じように発症します。また、監禁体験から10年以上経って発症することもあります【詳しくは、―後遺症PTSDに苦しむ―をご覧ください】。
第三に、本人の自由な意思に反して強制的に説得するやり方は、これも脱会に成功する、しないに関わらず、多くの場合、親子、兄弟、夫婦関係を悪化させます。本来最も信頼できる家族から暴力的に拉致監禁されたショックから家族関係がうまくいかず、心の溝が深まり、分裂状態に陥る家族が多くあるのです。中には修復し難い深刻な断絶が生じることもあります。
一つの例を挙げます。
拉致監禁、強制説得の結果、統一教会を脱会することができた当会の宿谷麻子さんには、脱会後、新たな自由で充実した生活が待ちうけているはずでした。しかし、その期待は、早々に打ち砕かれてしまいます。突如として全身に発症し始めたアトピー湿疹を狂ったようにかきむしり、夜な夜な悪夢にうなされる日々。加えて、極度の情緒不安定、睡眠障害、アルコール依存などに悩まされるようになったのです。苦しみが限界に達した麻子さんは、心療内科を受診しました。そこで、下された診断結果は拉致監禁による心の傷が原因のPTSD(心的外傷後ストレス障害)でした。その後の宿谷家は、拉致監禁を行った両親と、された麻子さんとの間の深い溝を埋めるのにたいへんな困難を強いられることになります。【詳しくは―『元信者・宿谷さん親子』講演会―をご覧ください】
このように、「子供(妻)のため」と思い、保護説得に踏切った家族は、たとえ信者の脱会に成功したとしても、その後、全く予想外の心の破壊や家族崩壊に陥り愕然とすることがよくあるのです。脱会専門家の指導に従い保護説得をしてみたところ、その過程で脱会専門家から、傷つけられ、親子関係もズタズタにされ、今では彼等の指導に従い保護説得したことを後悔している親達もいるのです。
このように見る時、果たして保護説得というものが、子供(妻)や家族の真の幸福をもたらすと言えるのでしょうか?
さらに、拉致監禁による強制説得により被害を被るのは、信者本人やその家族だけではありません。その被害者に将来を約束した婚約者がいた場合、愛する婚約者を突然奪われるその相手の苦悶は想像を絶するものがあります。【詳しくは―最愛の人を失った人々の証言―をご覧ください】
(注1)2000年4月20日、衆院決算行政監視委員会で桧田仁自民党衆院議員(当時)が人権侵害・信教の自由に関して、特に統一教会信者に対する拉致監禁問題ついて質問を行ったのに対し、警察庁の田中節夫長官(当時)が答弁した。
三.客観的、冷静な判断を
既に御存知と思いますが、カルトと呼ばれる団体からの救出に関する書籍が多く出版されています。また、救出のための集会や相談会がよく行われています。そこに必ず登場するのが「マインド・コントロール」という理論です。「あなたのお子さんは、マインドコントロールされていて、自らの力で脱出することが不可能になっている。」このように言われて心配しない親はいないでしょう。そして、不安に駆られた信者家族が集会などで次に聞かされることは「素人では脱会させることは困難」という絶望的な話です。こうなると、家族を脱会させるためには、その道の専門家=脱会カウンセラーに頼るしかない、といった状況になります。その専門家の教育と指示に信者父兄が忠実に従った結果が、過去44年間、全国で4000件以上の「保護説得」すなわち「拉致監禁による強制棄教」なのです。
保護説得を勧める人たちは、もちろん真実を述べていることも多いでしょう。しかし、信者家族の皆さんが後悔しないために是非お願いしたい事があるのです。それは、保護説得を勧める人たちの発信する情報を鵜呑みにしないでいただきたい、ということです。それらを冷静に見つめる客観性を持って頂きたいのです。
例えば、脱会カウンセラーの勧めにより、『マインド・コントロールの恐怖』(スティーヴン・ハッサン)や『マインド・コントロールとは何か』(西田公昭)を読んで情報収集することも必要でしょう。しかし、一方『「マインド・コントロール理論」その虚構の正体』(増田善彦)や『我らの不快な隣人』(米本和広)を読むと、この理論は、実は、「作られた言説」であり権威ある科学的学会が、完全に否認している「似非科学理論」であることが分ります。そして、「マインド・コントロール論」を今でも熱心に信奉しているのは、日本ではカルトと呼ばれる団体の保護説得活動に従事している脱会説得者および弁護士を含めその支援者だけであり、世界中の権威ある科学者の学会および学者たちから見ると、彼らは、まさに「井の中の蛙」状態にあることが分ります。
「マインド・コントロール論」が虚構であることは、その信奉者が繰り返し主張している「あなたのお子さんは、マインドコントロールされていて、このままでは一生、自らの力で脱出することは不可能。」という言説が事実ではないことからも明らかです。例えば、統一教会に入信した信者は累計で52万人ですが、現在、比較的熱心に活動している信者は約6万人です(『我らの不快な隣人』p251)。従って、監禁下の強制説得によって脱会した約3000人を除けば、自主脱会したか、自らの意識で退会状態になっている元信者が圧倒的に多いのが事実です。
このように日本におけるマインド・コントロール理論に対する誤った“信仰”を蔓延らせ、保護説得(拉致監禁)を容認あるいは正当化し、実行に駆り立てる理論的な根拠として「マインド・コントロール理論」を悪用してきた彼らの罪は極めて重いといえます。
その他の様々な情報も同様であります。繰り返しになりますが、信者家族の皆様が後悔しないためにも、保護説得を勧める人たちの与える情報を鵜呑みにすることなく、大所高所から自らの目で冷静に見つめる客観性を持って判断して頂きたいのです。
そのために皆様に2つの参考資料をお勧めいたします。以下の2つの資料は、中立的な立場での綿密な取材により客観的な「真実」を知ることができます。
①韓国SBSテレビ「統一教 拉致監禁事件『キヨミ 13年ぶりの帰郷』」
2010年10月6日に韓国の3大テレビ局の1つ、SBSテレビで放映された「統一教 拉致監禁事件『キヨミ 13年ぶりの帰郷』」と題する、ドキュメンタリー番組。
大手テレビ局が客観的な立場で、拉致監禁事件の真相に迫った特集番組を放映したことは初めてで、韓国国内で賛否両論、大きな反響を呼びました。保護説得の結果、説得を受ける本人と家族はどうなってしまうのか。脱会請負人と依頼者の間で、実際どのような金銭のやりとりが行われているのか等、拉致監禁された側だけでなく、脱会説得者側にも取材をして両方の言い分を収録、十分な公正さを保持しています。
百聞は一見にしかず。特に保護説得を考えているご父兄の皆様には、実行する前に、是非一度ご覧になられることをお勧めいたします。
②我らの不快な隣人 ~統一教会から救出されたある女性信者の悲劇~(米本和広著・情報センター出版局)
ルポライターである米本和広氏の長年に亘る関心は、カルトと批判される団体である。それまで「幸福の科学」「ヤマギシ会」「法の華三法行」「ライフスぺース」などの批判的な記事を書いてきた筆者だが、書くたびに信者家族から「家族をカルトから取り戻すにはどうすればいいでしょうか」という相談が多数寄せられたという。そこで、米本氏の問題意識は次第にカルト批判から脱会の方法に移っていった。そんな時、ひょんなことから統一教会信者の脱会説得方法を知り衝撃を受ける。取材を開始するにあたって価値中立的に書くために、先ず、統一教会にも拉致監禁にも批判的な元信者を取材対象とした。そして、6年半に亘る丹念な取材を重ね、書き上げたのがこの本である。
米本氏はこの本のプロローグで「私は『是々非々』の立場を貫きたい。」と述べている。統一教会信者の救出方法の現実を公平な立場で客観的に知ることができる貴重な本である。
四.強制力を用いず、親子で率直な話し合いを
最後に、脱会説得のための保護説得(拉致監禁を伴う強制的説得)に代わる「代案」を提示したいと思います。
月刊「創」2000年5月号『知られざる「強制改宗」めぐる攻防・連載第3回・マインドコントロール理論を批判する』に世界的に知られる宗教社会学者アイリーン・バーカー博士のインタビュー記事が掲載されました。聞き手は、宗教ジャーナリスト 室生忠氏。
その中でパーカー博士は、ディプログラミング(監禁などを伴う強制的脱会説得)と脱会カウンセリングの違いを次のように説明しています。
「ディプログラミングと脱会カウンセリングを区別する最も有効なポイントは、“物理的な力”が行使されているかどうかです。ディプログラミングにおいては、その人は自分の意思に反して捕らえられ、逃げたくても逃げられない状態になる。脱会カウンセリングにおいては、当人はいつでも逃げることができるし、また、カウンセラーの話を聞くことに本心から同意している。これが根本的違いです。」と述べておられます。
【詳しくはこちら →室生忠の宗教ジャーナル】
もし、家族以外の第三者が、脱会説得のために介入するとすれば、この原則を厳守すべきです。これを逸脱し、本人の意思に反して拉致監禁を伴う強制説得を行えば、今まで述べたように「犯罪行為、人権侵害」となり、「心の破壊、家庭崩壊」を招く結果となるのです。
あまり知られていないことですが、上記のことは、日本にマインドコントロール理論を広めた最大の功労者である『マインド・コントロールの恐怖』の著者スティーヴン・ハッサン氏その人がはっきりと言明していることなのです。
彼は、日本のキリスト教牧師がディプログラミングに関っているとの指摘を受け、2000年3月、日本基督教団に対してそのことを問いただす手紙を送っています。彼は手紙の中で、「私はこの手紙が、カルトのメンバーを助けるアプローチが強制ではなく、愛と同情と肯定的コミュニケーションであるべきだと私が考えているという、公的記録となることを望んでいます。さもなければ、拉致や非自発的監禁は不可避的にトラウマを残すでしょう。」と述べ、子供の意思に反して拘束するやり方を日本の牧師達が行わないよう強く警告しています。
【詳しくは、―スティーブン・ハッサン氏から日本基督教団への手紙―をご覧ください】
最後に信者家族の皆様に考えて頂きたいことがあります。それは、第三者(専門家)に頼り、その指導を仰ぎ、指示に従うやり方で脱会説得を試みることについてです。保護説得を経験した多くの方が、最後まで責任を持てない他人を頼り、その指示に従って、今までに受けたことのない暴力的行為(拉致監禁、強制脱会)を振われたことに対し「親への尊敬と愛情」ではなく「感じたことのない恐怖と嫌悪感」を感じた、と証言しています。ですから、たとえ脱会に成功しても親子関係が悪くなる例が多いのです。
先に述べたように、子供は「マインドコントロールされたロボット」ではありません。一個の人格を持つ成人であります。第三者に頼る以上に、親として子供と正面から向き合い、とことん話し合って頂きたいのです。
一方、信者である子供(妻)も、自分の親(夫)ときちんと向き合い、説明を尽くすことが大切であるといえましょう。世代の違いや価値観の違いはあるでしょうが、何よりもコミュニケーション不足が相互理解を妨げ、お互いの不信感を募らせるのではないでしょうか。
ただ、過去に多くの統一教会信者が実際、拉致監禁されています。ですから、信者の多くは、拉致監禁されることを恐れ、警戒せざるを得ないのが現状です。そのために、実家からどうしても足が遠のいてしまう方もおられます。まして、一度、拉致監禁を経験した方は、再び監禁されることを恐れ、実家に顔を出すことさえも困難になります。
また、過去の拉致監禁の例を見ると、反対していた両親が、急に統一教会の集会やイベントに参加するようになったため、両親が理解し始めたかのように思い、信者が安心して実家に帰った矢先に拉致監禁されるということが実に多いのです。これは脱会説得の専門家が子供の警戒を解かせるために、両親によく指導するやり方です。こういった、「拉致するためのワナ」ともとれるような手法を用いた拉致監禁が多いため、信仰を持つ子供が、家族と向き合い話し合いたいと思っても、家に帰るどころか、家族を信じることさえできなくなるのです。ここに拉致監禁を指導している脱会説得の専門家達の罪深さがあります。
信者家族の皆様と信者である子供(妻)が、お互いの信仰と価値観、人格を尊重しつつ、正面から真剣に向き合い、一個の人間同士としての率直な話し合いを通して、お互いの理解を深め合うことが肝要と思われます。
信者のご家族の皆様。後悔先に立たずと申します。
皆様がどうか賢明なる判断を下されますようにと心から願ってやみません。
拉致監禁をなくす会